仕入先から、また価格改定の連絡が来る。

製造業の現場で働いていると、ここ数年、こうした場面を目にする機会が増えました。

問題は、仕入価格が10%上がったからといって、自社の商品価格もそのまま10%上げられるわけではないことです。

中小企業庁の「2026年版中小企業白書」によると、2025年9月時点で、中小企業のコスト全般の価格転嫁率は53.5%でした。価格転嫁は改善傾向にあるものの、仕入価格の上昇分を販売価格へ十分に反映できない企業は依然として少なくありません。

こうした状況になると、当然ひとつの選択肢が浮かびます。

「中国から直接調達すれば、もっと安くできるのではないか。」

実際、中国の供給元までさかのって条件を確認すると、日本国内の仕入価格より大きく下げられるケースはあります。

ただし、私は「中国の方が安い」という理由だけで仕入先を変更するべきではないと考えています。

実際に、約500円/kgの価格差が見えていたにもかかわらず、切り替えなかった案件がありました。

1.約1,300円/kgから、日本着ベース約800円/kgの可能性

ある食品原料の調達を見直したときのことです。

この原料は年間で約32トン使用しており、日本の既存仕入先から当初約1,100円/kgで購入していました。その後の価格改定で、仕入価格は約1,300円/kgになりました。

200円/kgの上昇です。

年間32トンすべてを同条件で購入すると仮定すれば、単純計算では年間約640万円の負担増になります。

そこで、中国の供給元と直接条件を確認しました。

年間使用量、日本向けに必要な仕様、輸送条件などを整理して試算したところ、当時の条件では、日本着ベースで約800円/kgまで下げられる可能性が見えてきました。

日本:約1,300円/kg。
中国調達案:約800円/kg。

単価差は約500円/kgです。

数字だけを見れば、「すぐに切り替えた方がいい」と考えたくなります。

しかし、実際には切り替えませんでした。

2.年間32トン使うことと、一度に5トン買えることは違う

中国側から提示された条件の一つが、1回5トンの最低発注量でした。

年間使用量が32トンなら、5トンは大きすぎないようにも見えます。

しかし、年間で32トン使用することと、一度に5トン必要になることは同じではありません。

既存の国内仕入先であれば、今月200kg必要なら200kg、需要が増えた月はその数量に合わせて発注できます。

一方、5トンをまとめて調達すれば、単価は下がっても、在庫を一度に抱えることになります。

そこで発生するのは、倉庫スペースだけの問題ではありません。

  • 一度に必要となる資金
  • 実際の生産計画との数量のずれ
  • 保管期間の長期化
  • 長期在庫による品質への影響

こうした負担を誰が持つのかまで考える必要があります。

今回の案件では、この点が切り替えを見送る大きな理由になりました。

ただし、中国調達そのものが否定されたわけではありません。

将来、ある製品や顧客向けに一度に5トン前後を使用する需要が発生すれば、同じ中国調達案が合理的になる可能性があります。

つまり、同じ原料でも、需要の形が変われば、最適な調達方法も変わります。

年間使用量32トンとMOQ5トン、仕入先変更コストの違いを示す図

3.国内の仕入先は、単に「上乗せ」しているだけなのか

中国の源頭価格を見ると、日本国内の仕入価格との差に驚くことがあります。

商流が長くなれば、その途中でコストや利益が積み上がります。そのため、必要以上に長い商流は見直す価値があります。

一方で、今回の案件を考えると、既存の国内仕入先が担っている機能も見えてきます。

例えば、

  • まとまった数量を仕入れて在庫を持つ
  • 必要な企業へ小ロットで供給する
  • 需要変動を吸収する
  • 既存の取引条件に基づく支払サイトを提供する

といった機能です。

中間業者が存在すること自体が問題なのではありません。

重要なのは、その中間機能が本当に必要なのか、その対価が合理的なのかを見極めることです。

必要のない距離は短くする。
必要な機能には対価を払う。

中国調達では、この両方を考える必要があります。

4.仕入先を変えると、購買部門の仕事も増える

仕入先変更でもう一つ見落とされやすいのが、社内の切替コストです。

新しい原料や新しい仕入先を採用する場合、実際の購買部門では、例えば次のような作業が発生します。

  • 新規原料の社内登録
  • 新しい原料コードの設定
  • 新規取引先に関する社内手続き
  • 初回取引時の支払・海外送金申請
  • 関連資料や社内運用の更新

「発注先を変更する」だけでは終わりません。

価格差が小さい場合、こうした社内工数まで含めると、既存の安定した仕入先を継続する方が合理的なこともあります。

5.中国調達を検討するときに確認したい5つのポイント

私なら、単価を見る前に、少なくとも次の5点を確認します。

① 価格差は十分に大きいか

輸送費、通関、検品、管理などを含めた比較可能な条件で、本当に差が残るか。

② MOQと実際の使用量は合っているか

年間使用量だけでなく、「一回の発注でどれだけ使えるか」を確認する。

③ 在庫・資金・品質リスクを誰が負担するか

安くなる代わりに、これまで他社が持っていた負担が自社へ移っていないか。

④ 現在の仕入先が提供している機能は何か

小ロット、在庫、支払条件、迅速な対応など、価格表に見えない機能も整理する。

⑤ 仕入先変更に伴う社内コストはどの程度か

購買・品質・経理・現場の作業まで含めて、変更する意味があるかを考える。

中国調達は目的ではなく、調達課題を解決するための選択肢

現在の日本の仕入先が安定していて、中国へ切り替えても実質的な価格差がそれほど大きくないのであれば、私は無理に変更する必要はないと思います。

一方で、国内調達の価格上昇が続き、国内だけでは改善余地が見つからないのであれば、中国の供給側までさかのって条件を確認する価値があります。

そのとき重要なのは、単純に「一番安い工場」を探すことではありません。

どこまで直接つながるのか。
どの機能を残すのか。
どの負担を自社で持つのか。

調達の仕組みそのものを考えることです。

中国調達に切り替えるべきなのは、「中国の方が安いとき」ではありません。

切替コストまで含めても、変える意味があるときです。

株式会社康程優創では、中国でのサプライヤー調査、仕様確認、価格・条件交渉、サンプル確認、品質確認など、日本企業が中国調達を検討する際に不足しやすい実務機能を支援しています。

現在の仕入先を変更することを前提とせず、「この調達は中国で検討する意味があるのか」という初期段階から整理することも可能です。

よくあるご質問

中国調達はどのくらい価格差があれば検討すべきですか?

一律の基準はありません。単価差だけでなく、MOQ、輸送、在庫、品質管理、支払条件、社内切替コストまで含めて判断する必要があります。

年間使用量が多ければ、中国から直接買う方が有利ですか?

年間使用量だけでは判断できません。一回あたりの使用量、発注頻度、保管可能期間、必要資金なども重要です。

現在の国内仕入先が安定している場合でも、中国調達を検討するべきですか?

価格差が小さく、現在の仕入先が品質・納期・小ロット対応などで安定している場合は、無理に切り替えない方が合理的なこともあります。

関連する情報

現在の仕入先を変更することを前提としないご相談も可能です。

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参考

中小企業庁『2026年版中小企業白書』